王と静寂

 摩訶不思議な精密そうな機械、床に散乱する工具。そこにいる彼女は身体に作業着をまとって溶接用の保護面を付け、二本の腕と背中に背負った機械から生えている二本の義手を器用に操り、目の前のヒューマノイドロボットのメンテナンスを滞ることなく進めていく。ふと彼女は手を止め、分厚くいかつい見た目の手袋をつけた右手で保護面を頭の上にスライドさせる。目もたった二つ、自前の腕もたった二本のHumanとしては奇妙な見た目の彼女の名、それは〝レークス〟、王という意を持った名を持つ彼女はHumanの頂点にはるか昔からレギーナとともに君臨しており、王の名に恥じない偉業を残している。そしてHumanから信仰の対象となっている彼女らだが、そのことを快く思わないものも多い。
 しかし彼女らはHumanの間で美しいとされているものを全て兼ね備えている。しなやかな筋肉が曲線を描くバランスのいい肉体、まばゆいばかりの笑顔の持ち主であるレークス。華奢な体つき、上品かつ|婀娜《あだ》めいた振る舞いに目を奪われるレギーナ。二人とも共通して絹糸の光沢を放つ髪、|翠色《すいしょく》の瞳が華麗である。実際、その綺麗な外見に釣られているHumanが多いのは事実だ。

「レークス様、ただいま帰りました」
そこにかっちり後頭部にまとめた髪とネクタイを解きながら、カツカツと踵の音を鳴らして、雑然とした部屋にクワイエットが入ってきた。目を細め、如何にも不機嫌そうな雰囲気である。「ああ、クワイエットか。おつかれ――その様子だと聞くまでもなく、断られたようだな」
「ええ、ええ、そうですとも、我らの王」
レークスは彼とは対照的な様子で、ケラケラと晴れやかな笑い声を上げた。
「まあ最初から期待はしてなかったさ、リラックスリラックス!」
「……いえ、申し訳ございませんでした。このことに関しては私の力不足でございます」
八の字を寄せていた彼の表情が少し和らいだ。
 クワイエット――彼は幼いころから王と王妃に仕えている。HumanはAngelsを祖に持っている、という考えを持つ〝ウラヌス派〟の親の元に生まれた彼。ウラヌス派は黒を強く忌避している。フォーリンの色とされているからだ。
 そんな親の元に生まれたクワイエットの瞳と髪の色は不幸にも黒だった。そのため家族からは邪険に扱われてきた。しかし王と王妃はそんなことを許しはしない、彼の噂を聞きつけ自らの下で彼を育てた。
 よって彼は、彼女らに心酔している。特にレークスに好意を抱いているようで、彼女がいるときだけ微笑みを見せる。
「Sirenたちは高貴だからな、そう簡単に取り合ってはくれないだろう」
「ええ、ええ、本当にプライドだけ高くて困ります」
「まあいつか、話を聞いてくれる日が来ることを祈るしかないな――」