正義の二人

シュレッケンとギフト。彼女らはHuman Streetと呼ばれる場所で生まれ、育ってきた。その場所は過酷で、シュレッケンは顔と身体に大きな傷を負ったため、彼女は顔を隠すために常にガスマスクをかぶっており、素顔を相棒であるギフト以外には見せない。そしてギフトは幼い少女の様な見た目をしている。その理由は彼女自身の実験の事故によるものだ。まあ、彼女自身は警戒心を抱かれにくいこの見た目を気に入っている。
「……暇ね、シュレッケン。仕事はないの?」
「ギフトの、仕事、ない。僕は、帰ったら、部屋の、修繕ある」
そうシュレッケンは自らの長く伸ばされた金色の髪を指でくるくると弄りながら、かすれた声で話す。喉の火傷の後遺症で彼女は満足に声を出すことができず、少々独特な話し方をする。
「いや、さすがのあんたも部屋の中でロケランぶっ放すとは思わなかったわ。」
「クワイエット、あいつ、ここヒューマンストリートでは嫌われてる。あいつの身体、高く売れそうだと思った」
ギフトは口に小さな両手を当てわざとらしそうにクククっと笑い声を上げると、堰を切ったように笑い出した。
「あんた、ちょっと頭おかしくない? そんなことやったらワタシらは首になっちゃうわよ、物理的に、断頭台でスパッと。」
まあ、確かにあいつの死体が高く売れるのは確実だろうけどね、と小声で続ける。
「あの漆黒のような黒い髪の毛、うーん、考えただけですごいわね」

彼女らがいる場所では、人身売買、あるいは死体の取引など日常茶飯事だ。その需要は幅広く、Humanの身体以外にもSirenの肉なども人気だ。今は一般的には単なるおとぎ話として扱われており、レークスとレギーナは公式に迷信だと発表しているが、いまだに一部の人々の間では「下半身が魚の――地位の高いとされるSirenをHumanが口にすると不老不死になれる」「Angelsの身体の一部を手に入れればこの世の真実がわかる」という話がまことしやかにささやかれている。またそれ以外にも「脚が二本生えているSirenの肉を食べると病気、身体の不調がすべて治る」「Sirenの精液と血液を混ぜたものを四十日間腐らせると人工的に生命を作り出すことができる」などの話がある。またHumanが取引される理由としては労働力、黒魔術等の儀式の生贄、食用、性奴隷、臓器摘出、あるいは単なる支配欲を満たすためなど多くの理由があり、それに伴って乳幼児から五百歳越えの老人、男から女まで、貧困層から上流階級までのHumanが取引されている。
また、一般的なHumanよりも不遇な人生を歩んでいるHuman Streetの住人はレークスとレギーナ、その周辺の人間を恨んでいる者も少なくなく、一部の組織では賞金首として二人の名を上げていることさえある。
「まあ、とりあえず変に恨まれないように周りにはいい顔しときましょ」
「わかった」
「それにしても最近は刺激が足りなさすぎる。ここらへんでパーッと血でも浴びたいわね、真っ赤な血――美しい」
「……あいつの血、キラキラと、光ってて、綺麗だった……」
「確かにねえ……」
彼女はその時を思い出すように空へと目を向け、自身の多色性を持つタンザナイトの様な短い髪を一、二本力を込めて抜き、血が透き通っているようにすら見える雪の様な白い肌に歯を突き立てた。そこの皮膚からは藤色の血液がぷつぷつと真珠のように連なってあふれ出し、それを見て彼女は満足そうに微笑んだ。
「光る血液、高貴なる者の証。ちょっとだけでもいただきたいわね。きっと見てるだけでも楽しいわ。アクセサリーにするのもいいわね」
「でもあの時、あいつを大人しくさせようとして殴った時に服にゲロをぶちまけられたのは参ったわ、なかなか汚れが落ちなくて」
「ギフト、力弱いし、気絶させるの、へたくそ。僕なら、失敗しなかった」
「そうねっ!」
ギフトは甲高い笑い声を楽しそうに上げた。