ヒエロフィリア

今日は特別な日。
「アザゼルしゃま! ごきげんよう!」
アザゼルという名のフォーリンに仕える、体長八十センチメートルほどの彼らは、periodピリオドと自ら名乗っている。彼らの間では一体一体にそれぞれ呼び名があり、お互いにその名で呼び合っているのだが、彼ら自身以外には〝period〟という名で呼ばれたがっている。period達はおおよそ下位のAngels達、かつてのアザゼルと同じような見た目、つまりは頭の上に輪が浮いており、目が二つ、腕と脚は二本ずつ、肩甲骨のあたりからは小鳥の様な翼が生えている。しかし、一般的なAngels達とは体色が異なっており、頭上の輪と髪の色はすべてを吸い込むようにすら感じられる漆黒の輝きを放っている。その目はすべてが黒一色で統一されており、肌は血色を感じさせない陶器の様な白さをしている。
「ごきげんようperiod。みんな元気かな?」
そうアザゼルは優しく呼びかける。彼女ははるか昔にフォーリンとなり、地上に降りて暮らしている。彼の翼と髪、瞳は他のフォーリンやperiodのように黒く変色している。海に囲まれHuman達が近づくことはほとんどない秘境の孤島。しかし彼は寂しくはない。periodがいるのだから。
彼はHumanのことを狂おしいほどに愛している。そのために彼はフォーリンとなった後は、自らの翼をHumanのもう二本の両腕のように改造手術を施したほどだ。カラビ=ヤウ空間ではHumanが好き、というのは全くと言っていいほど理解されなかったが。特別な日、というのは彼がこの孤島を出てHuman達に会いに行く日。
アザゼル達はアカシアの木材でできた部屋に入る。正面壁の上側にはオリーブ製の鳩のペンダントがかけてある。このがらんとした部屋はperiodが彼らの主人のために造ったものだ。彼ら曰く、「アザゼルしゃまがHumanたちと結婚するのに必要なものなの!」とのことだ。
その時まで笑顔だった――彼は部屋の中心に倒れこむ。眼孔から、口から、赤い液体があふれ出す。「どうして」、その言葉が彼の口から最後の雫として零れ落ちた。それは彼の肉体の死を意味していた。瞬間、period達が〝かつてアザゼルだった肉塊〟にウジ虫のようにワッと集まり、肉をむさぼりだした。まだ暖かい身体、動脈からあふれる鮮血、小さな手の細い指でつかまれた、ゼリー状の物体でまみれた潰れた眼球、薄い肉付きの胴体から飛び出した柔らかく生臭い内臓、乱雑にへし折られた四肢の骨、千切れた腕のような翼。それらをperiod達は口に運ぶ。
どのくらい時間がたっただろうか。死体に集っていた彼らがまばらになる。そこには心臓以外に何も残されていなかった。
かつてperiodと呼ばれていたものは天を仰ぐ。

「我はAzrael。愚かな堕天使に死を告げる」
「「我らは栄光グローリアに仕えるもの。我らは愚かな堕天使に終止符ピリオドを打つ」」
「我はComma。愚かな堕天使の消滅から新たなAngelsを創り出す」
「「我らは栄光グローリアに仕えるもの。我らは愚かな堕天使に終止符ピリオドを打つ」」
彼らの甘美な声による合唱が高らかに響き続けていた。