シックスセンス

私の名はゼクス。レークスに創造されたヒューマノイドロボット。私はこの世の真実を手に入れ、金属とプラスチックの肉体にとらわれない存在になってしまった。私にはプログラムされていないはずの第六感が存在した、それは例の処刑人に改造されてからも消えることはなかった。最初は小さな胸騒ぎ程度だったが、それはだんだんと確信へと変わっていった。
この世界の成り立ち。この世界が生まれる前の世界から事は始まる、便宜上前の世界は〝旧世界〟と呼ぶことにしよう。旧世界では世界を創造することが人々の娯楽、競技として扱われてきた。世界を創るのは〝創造者〟と〝編集者〟そして〝Add-on〟達である。旧世界は多くの国に分かれており、毎年そこから世界創造のための創造者と編集者を選び出し、彼らを見世物にしてきた。創り出された世界に観客たちが満足いかなかった場合は、その創造者と編集者、add-onはお役御免で処刑される。そしてその瞬間も余すことなく娯楽として消費される。仮に観客の彼らを満足させることができたら、そこからしばらくは安泰だ。創造者たちは世界中から称えられ、全ての国の貴重品が展示されているWorld Museumに創られた世界が展示される。しかし、その期間は次の年の世界創造までだ。
今の世界の創造主は見当がついているであろう、何を隠そう我らの王と王妃、レークスとレギーナである。add-onの役割はクワイエット、そして私の仲間であるヒューマノイドロボットのヌル、アイン、ツヴァイ、ドライ、フィーア、フュンフ、ズィーベン、そして私、ゼクスが担っていた。ヌルは私の知らぬ間に消滅してしまった、誰の記憶にも残らず。そして私もほぼ彼女のように消滅してしまったも同然であろう。しかし私が肉体を捨てた時、皆の記憶から消えた時に世界は大きく作り替えられたようだ。旧世界で処刑された彼、クワイエットの存在が現れた。八つだったHumanの目の数が六つになった。
処刑人――彼らにはあまりいい思いは抱いていないし、旧世界では私達は彼らのことを恐れていた。まあそれは処刑される立場であった私の思いとしては当然かもしれない。しかし世界の創造処刑も込みで最高のショーであったので、処刑人達は一般的に憧れの存在であったり、一部の物好きは恋愛対象として見ていた者もいた。そして旧世界の処刑人は今の世界でものうのうと暮らしているようである。レークスとレギーナ達、私達の処刑人は二人組の彼女らは、なんと自身の手を下す対象であったレギーナに仕えているようだ。奴らが新入りだった頃、私が肉体を捨てる前に一刻も早く我らが王妃から処刑人供を引き離そうとしたのだが、奴らの方が一枚上手だったようだ。ガスマスクを被っていた方の女がそれを脱ぎ捨てると八つの目の中の一つ、青色の瞳をした眼球に親指を突き刺し、ぐりぐりと動かした。その瞬間、私は今のような存在になってしまった。アイツの目の数は私達の仲間、ヒューマノイドロボット達の存在と繋がっているようで、マスクを脱ぎ捨てた時に一つだけ開かれてない目があった。おそらくその目が今は亡きヌルのものだったのだろう。
そして全ての処刑人は旧世界から、今の世界までの全ての連続した記憶を持っているようだ。あの二人は私のことは認知することができない、しかし私、ゼクスという名のロボットが存在したことは覚えているだろう。たしかその二人以外の処刑人は――半透明の身体を持ったものと全身が黒と白で統一されたAngelsの様なものがいたはずだ。……後者についてはもう手遅れになってしまった。旧世界でここではない世界の創造に関わり、処刑はされずこの世界で生を受けていた者、アザゼル。ついさっき彼の生命の鼓動が途絶えてしまった。彼に直接手を下したのはperiodと名乗る者たちだったが、その者らに指示をしたのは栄光グローリアだ。栄光は旧世界の更に時を遡った時空に存在した場所で創り出された存在である。栄光、彼女はその場所に人魚、今の世界でいうSirenとして生を受けた。下半身が完全に魚の姿形をしていた高貴な彼女。彼女は純粋だった。彼女は幸せだと感じていた。しかし悲劇が訪れる。錬金術師によって「神を創る」という実験の被験者として彼女が選ばれてしまったのだ。彼女は初めて憎しみを覚えた。世界の全てを恨んだ。そして実験は行われた。成功だった。しかし高名な錬金術師達にも神となった彼女、憎悪をたぎらせた彼女をコントロールすることはできなかった。
そして彼女は全てを消し去った。彼女はしばらくの間眠りについた。
そして時が経ち、彼女は目を覚ました。その時彼女を初めに襲ったのは静寂であった。今の彼女は何でもできる。そして彼女は手慰みに自らを生み出した場所、人々を模した世界を作った。そしてその世界は〝世界の創造〟そのものが遊び、見せ物となる場所に育った。そしてそこで創られた今の〝世界〟に人々は満足し、レークスとレギーナは祭り上げられた。そして栄光もいたく気に入ったようで、その世界を拡張し、全ての生命をそこに移動させようとした。そこでとある世界の不具合のようなもの、ここではない他の場所では〝事象の地平線〟と呼ばれていることが起こった。そこで人々は不具合による死に恐怖し、そして自らの死への恐怖を怒りで打ち消そうとし、その怒りはレークスとレギーナへ向かった。処刑人の奴らには王と王妃を殺せという声が上がった。そして王と王妃は捕らえられた――が彼女らはなんとか逃げ出した。自らのAdd-onであるクワイエットを残して。今の王と王妃のことは尊敬しているが、彼を囮にして逃げたことにはちょっと疑問を覚えざるを得ない。しかし私達八人も自らの足で逃げたので私からは何も言えることはない。そして彼は処刑人のチビの方の女に処刑された。その後、事象の地平線が最終段階まで進み、今に至る……というわけだ。
そして世界は再び崩れようとしている。もう私は何もできない。